新機動戦記ガンダムW

SPECIAL


ガンダムW対談 プロデューサー・富岡秀行×シリーズ構成・隅沢克之

「ガンダムW」以上の難産の作品はない! と語るお二人に、当時を振り返ってお話していただきました。
※この対談は2007年のメモリアル-DVD BOX発売当時のものです。ご了承ください。

5体のガンダムから始まった「ガンダムW」の企画
「新機動戦記ガンダムW」はどのようなコンセプトで企画されたのですか?
富岡
最初に決まっていたのは、5体のガンダムが出てくることだけでした。これは、前年に放映された「機動武闘伝Gガンダム」で、主人公たちのグループが5人だったという流れを受け継いだものです。「Gガンダム」に登場したMS(モビルスーツ)のプラモデルが、それまで停滞していたプラモデル市場を活性化してくれたので、後番組である「ガンダムW」にも当然、同じ結果が求められたわけです。しかし当初は5体のうち、シェンロンガンダムとガンダムヘビーアームズだけしか決定しておらず、主役機であるウィングガンダムが決まったのは最後だったかな?
隅沢
実は、主役機のコンセプトは「撃ち落とされるガンダム」だったんですよ。「オペレーション・メテオ」という名前に残っていますが、企画時点でのタイトルは「メテオガンダム」でしたね。
富岡
結局「変形して空を飛ぶ」というアイデアをバンダイさんから頂いて、採用になったわけです。そこからキャラクターやストーリーを詰めていく作業に入ったのですが、すでに放送開始まで半年を切っていて、とにかく大変。当時「覇王大系リューナイト」も同時にやっていたこともあり、まさか自分が「ガンダム」をやるとは思っていなかったので、「どうしよう、どうしよう」と(笑)。
隅沢
それはスタッフも同じ気持ちでしたよ(笑)。でも富岡さんが「やる」と言ったので、監督の池田成さんが、それまでのガンダムの作品を全部見た上で、1週間ぐらいでキャラクターやMS設定、40話までのストーリー構成まで書き上げてきたんです。それを見て、僕はすごいと思いました。「ファーストもZもGも全部やる」と池田さんが言っていた通りの内容で。だから、それを企画書にまとめて、キャラクターを詰めていく作業は本当に楽しかったです。
富岡
その言葉通り、「ガンダムW」にはそれまで20年間作られてきたガンダムのおもしろい要素が全部詰まっていると思いますよ。特にキャラクターが良くてね。村瀬くんのキャラクター設定を見た瞬間、「これはいける!」と思いました。
魅力にあふれたキャラクターたち
キャラクターの原案は、どなたが考えたのですか?
隅沢
監督の池田さんです。池田さんは絵がうまくて、原案は、村瀬さんが描いたようなタッチで描いてありました。
富岡
各キャラクターの服装、ヒイロがタンクトップと短パンという所まで決まっていてね。それを村瀬くんが完璧に描いてくるんです。細くて華奢で、中性的な絶妙のラインで。だから一目でいいなぁと。当時から有名な話でしたが、ヒイロのモデルはタレントの内田有紀さんです。
キャラクターデザインを村瀬修巧さんにお願いしたのは、特別な理由があったからですか?
富岡
最初は決まっていなくて、随分悩んでいたんです。そうしたら、池田さんが「村瀬さんに頼んだから」と。村瀬くんといえば「鎧伝サムライトルーパー」の作画で、女性人気を集めた人ですから、それでやっぱり村瀬くんしかいないということで決まりました。
隅沢
絵の力は大きいですよね。池田さんのストーリーしかなかったら、企画段階で大きくつまずいていたと思いますよ。1話でいきなり主人公機が沈んでしばらく出てこないし、5人は仲間じゃないし、学園モノだし(笑)。ガンダムらしさがどこにも感じられないですから。
ヒイロ以外のキャラクターは、どのように決まったのですか?
隅沢
先にMSが決まっていたシェンロンガンダムのパイロットは、企画当初はNT(ニュータイプ)能力を持つアフリカ人でした。NT能力で良いヤツと悪いヤツがわかるから、悪人にあったら「オマエ、ワルイヤツ」とか言って、問答無用で槍で突き刺すなんてアイデアがありましたねぇ(笑)。でも「Gガンダム」のドラゴンガンダムに中国人の子(サイ・サイシー)が乗っていたので、同じ中国人に変更しました。そういう部分では、「ガンダムW」にも世界各国の人種を登場させることになっていましたね。
富岡
2号機は“死神”というコンセプトで、デュオは根が暗い性格。
カトルは“アラブの王様”で、トロワは…なんだっけ?
隅沢
ティム・バートンです。どことなく悲しいけれども無表情という雰囲気が。
池田さんが大好きな映画監督なんです。
ヒイロは今までの作品とは違う、クール・天才系主人公でしたね。現在ではそのタイプの主人公が増えましたが、当時としては異色でした。
隅沢
それまでのガンダムの主人公は未熟者で、物語の中で成長していくタイプばかりでしたから。
富岡
この5人は完成している。なにをしても完璧だし、悩まない。
隅沢
だからキレイなこともやるけど、汚いこともやる。そういう意味では、従来型の主人公はデュオなんでしょうね。その場合は、脇役のヒイロに絶対に人気が集まる。ところがヒイロを主人公にしたから、デュオがものすごい人気者になってしまって。親切にしてやったのにお礼もないどころか、逆に使われたりして……普通そんなヒドイ目にあう脇役は人気が出ないはずなんですが、主人公がヒイロだったおかげでしょう。
富岡
みんないいキャラですよ。池田さん的には、5人全員主人公というコンセプトだったのですが、人気的にはカトルが落ちちゃって……。
隅沢
「宇宙の心ヤロウ」って、男の子人気ガタ落ちでしたね(笑)
富岡
そのせいか、プラモデルの売上もガンダムサンドロックだけが伸び悩んでねぇ。
隅沢
当時池田さんが「サンドロックのヒートショーテルの斬り方がダメだった……クロスに斬らなきゃ」と反省していました。池田さんが反省しているなんて珍しい! と思ってよく覚えていますよ(笑)。
OZ側のキャラクターに関しては?
隅沢
レディ・アンとトレーズが出会うエピソードがありましたね。もともとレディ・アンは「なんとかだべ」という方言丸出しの田舎娘だったけれども、トレーズが立派な淑女に仕立て上げたんです。このアイデアはカットされましたが、その流れが残っていて

「ことはすべてエレガントに。レディ?」
<第10話「ヒイロ閃光に散る」>

と、トレーズがレディ・アンに伝えるんです。(※実際にこのセリフをしゃべったのはノイン)彼女は、トレーズが風呂で話すシーンで、彼の言うことを聞いて伝える役として僕が作りました。
なぜ風呂シーンになったのですか?
隅沢
理由は不明です(笑)。最初は「ジャグジーがおもしろい」から始まって、次に「バラのエッセンスがおもしろい」と池田さんに言われて、あのシーンになりました。そのためだけにレディ・アンが必要だったんです(笑)。
富岡
その後、大変身して活躍しましたけどね。
隅沢
変わったといえば、ノインは最初男でした。ゼクスはシャア的なキャラだから、ノインはガルマ的な役割で出そうと思っていたのですが、女性になって恋愛関係っぽくなりました。
ゼクスとノインの関係も気になりましたね。
隅沢
再会した時に、腰に差した剣の柄をカチカチと合わせるでしょう。あのシーンをそのまま、池田さんがやってみせてくれたんですが、その時にはかっこいいと思えなかったんです。池田さんが話してくれるシーンは、僕らには冗談としか思えない奇抜なものが多かったので(笑)、でもフィルムになると、すごくかっこいいんですよね。
富岡
キャラクターには、自分でやっていて恥ずかしいと思うことをさせなきゃいけないんです。それをさせてこそ、キャラクターに魅力が出るということなんでしょうね。
思い出の名セリフ&名シーン
キャラクターのもう一つの魅力と言えば、セリフですが。
富岡
隅沢さんが作った企画書の段階で、すでに各キャラクターのセリフが書いてあったんです。
隅沢
あれは画期的だった! キャラクターに沿うセリフを置くと、細かく設定を書くよりもキャラクター性が伝わるんですね。ところが企画書に書いたセリフが全然使われないので、痺れを切らして、後半に僕が自分で使いました。
「命なんて安いもんさ……特にオレのはな」
最近ゲーム売り場で、緑川光さんのこのセリフを声で久々に聞いてちょっと感動しました。今はゲームがどんどん発売されていて、その度に声を録り直ししているみたいですね。
後、周囲の方には大変不評だったのですが、

「いったいお前のせいで何人死んだと思っているんだ!」
と聞かれて、
「昨日までの時点で、98822人だ」
<第48話「混迷への出撃」>
と返すトレーズ。

普通なら「そんなこと私に関係ない」と返すのですが、トレーズは言ってみせる。
トレーズ最高です!
富岡
もう12年も前だから、細かく覚えていないなぁ。前半1クールは、どの話数もインパクトがあったし、おもしろいセリフもあったよね。

「ヒイロー、わたくしを殺しにいらっしゃーい」
<第4話「悪夢のビクトリア」>

「任務完了」
<第2話「死神と呼ばれるG」>
隅沢
10話目にして主人公死亡なんていう展開、ありえないですよね。でも「ガンダムW」は池田さんが「おもしろい!」と言ったら採用されたんです。11話以降の作業にも入っていたのに「自爆……そうなるよね。うん、おもしろい、採用!」。そのシーンの絵コンテに「ヒイロはこれで死んでいるよね」と感想めいたこと書いてあって、半信半疑でフィルムを見たら、死んでいるようにしか見えないんです。僕らもビックリですよ!
シリーズ構成の立場としては、大変だったのではないでしょうか?
隅沢
僕は意外と冷静でした。次のライターがどんな展開をしてくるのか分からない、リレー小説みたいなものだと思っていましたから。主人公5人は、それぞれ思考の方向が違うけれども完璧であるという設定があったので、脚本家としては使いやすいキャラクターでした。ヒイロがいなくても、デュオとカトルが組んだらどんな会話になるだろうとか、トロワとヒイロの会話はどうだとか。彼らが単独行動すると戦いがひどくなっていくだけなので、複数で行動させるようにして。キャラクターができあがっているから、5人を“現場”に置けば、勝手に動くんです。だから自爆もしちゃうんですよ。脚本を書いた千葉克彦さん自身も、あの映像を見てびっくりしたんじゃないのかな。それから、普通のプロデューサーだったら、「ちょっと待った、考え直してくれ」と止めるはずなんですが、富岡さんは止めませんでしたね~。
現場には口を出さない方針ですか?
富岡
いや、自爆した方がおもしろい!
隅沢
プロデューサーからして、おもしろいもの勝ちですから!
キャスティングにもこだわったのですか?
隅沢
富岡さんと池田さんが決めたのですが、局の方に断固反対されていましたね(笑)
富岡
それまでの作品とまったく雰囲気が違っていたから、せめぎあう部分も多くて。制作側としてはいける自信があったので、ある程度こちらの主張を通して頂きました。そういう意味では、結果を残せて良かったと思っています。実はガンダムは30年間間断なく売れ続けている作品というわけではなくて、10年単位で大きな動きが起きてきたんです。「機動戦士Zガンダム」はファーストガンダムから10年、その10年後に来たのが「ガンダムW」。当時は本当に大変で辛かったのですが、「ガンダムW」の10年後に「機動戦士ガンダムSEED」が登場したことを考えると、「ガンダムW」の功績は大きかったのかなぁと思っています。
隅沢
僕は最初の試写会で第1話を見たときの、会場の反応が印象に残っていますね。サンライズの重役の方がズラリと並んで見るんですが、お歴々の皆さんは、さすがに戦闘シーンぐらいでは驚かないんです。ところが、後半に学園モノのノリになると、ソワソワしだしたんです。1号機も海の底に沈んじゃって「オモチャが売れないのでは?」「これからどうするのか?」なんて思ったんでしょうね。それで、ああこれはいい作品だなって確信したんです。あのかっこいいOPにも動じなかった重役たちが、ドヨめいたんですから。
富岡
OPがかっこいいでしょう。レコーディングに行って初めて、高山みなみさんが歌っていると知ってびっくりしちゃってね。あの曲、最初はイントロがなかったんです。レコーディングの場で「イントロをつけてください」とお願いして、つけてもらいました。完成した時には「このOPは売れるかもしれない」と池田と二人で言い合いましたね。
そして「Endless Waltz」へ
「Endless Waltz」は、どういった経緯で制作したのですか?
富岡
テレビシリーズ本編の人気が高かったので、続編を作って欲しいという要望は、実はかなり頂いていました。しかし僕個人としてはテレビシリーズで終わっていたし、監督である池田も降りてしまった後だったので、やるつもりはないと断り続けていたんです。
隅沢
僕は逆で、テレビシリーズでやり残していたことがいっぱいありました。最終話のシナリオをひねり出すのに1ヶ月以上悩みましたから。拾えきれなかったネタ、描ききれなかった所が山ほどあって、僕の中では終わっていなかったんですね。そんな時、やるはずだった仕事がなくなってヒマになって、富岡さんが渋い顔で「やる?」と声をかけてきてくれたんです。もう喜んで「やる、やる」と返事をしたら、制作が始まってしまいました(笑)。
制作を決断した理由はなんですか?
富岡
最後に3本作って、きちんと「ガンダムW」を終わらせてあげようと思ったからです。
隅沢
放送終了後にも関わらず、W人気にあやかってゲームやマンガが、僕らのあずかり知らぬ所でどんどん始まっていたんです。逆に「続編っぽいものを書いてくれ」という依頼もあちこちからきました。書こうと思えば延々と書けるのですが、富岡さんは「それは潔くない」と言っていて。だからきちんと終わらせようということになりました。
でもタイトルは「Endless Waltz」。これは周囲の状況を皮肉った題名になってしまいましたね。(笑)
5機のガンダムを太陽に運ぶという冒頭シーンにびっくりしました。
隅沢
それは、池田さんのテレビシリーズ最終話の構想なんです。それを逆手に取って、ガンダムがなくなっても戦争は終わらなかった。じゃあどうする。という所から物語を始めました。
富岡
結果的にいい作品になりましたね。OVAは男の子の人気も高くなったし。
隅沢
Wはメカ的な演出が少ないんですよね。MSの発進シークエンスを入れるよりも、ドラマを描く。女の子にとってはそれが良かったんですが、逆に男の子はメカ演出が薄いから燃えなかったのかもしれません。「Endless Waltz」ではメカシーンをきちんと演出したので、男の子も見てくれたのかもしれません。
MSがリファインされ、ウィングガンダムにはたくさんの羽根がつきましたね。
富岡
カトキハジメさんが、ぜひやりたいと言ったので。作画スタッフには嫌がられました(笑)。
隅沢
ちょうどウィングガンダムの作画制作をしている時期に、ディズニーのアニメスタッフの方がスタジオ見学にいらっしゃって、ビックリしていたそうですよ。「日本人は翼の羽が舞い散るのを全部手で描いているのか、クレイジー!」って。
今回のBOXには、OVAもすべて収録されるんですよね。
富岡
僕は最初のマスタリング作業に立ち会いましたが、今回のデジタルリマスターでは、フィルムの枠を少し広げているんですよ。放映当時は見えなかった部分にも、絵があります。
隅沢
フィルムだからできたことですよね。デジタルテレビで見ても困らないです!

【近況情報】
■富岡氏
アルバイトとしてサンライズ作品『太陽の牙ダグラム』に制作参加、『ボトムズ』より制作進行になる。その後多くのサンライズ作品を制作デスク、プロデューサーとして担当。現在はサンライズの専務取締役を務める。
■隅沢氏
脚本家、小説家。TV「新機動戦記ガンダムW」ではシリーズ構成を担当。OVA「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」で脚本を担当。「ドラゴンボールZ」「美少女戦士セーラームーン」「犬夜叉」など数多いアニメ作品の脚本も手掛けている。現在、月刊ガンダムエース(角川書店)で小説「新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop」を執筆し、漫画「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz敗者たちの栄光」のシナリオも担当している。
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